東洋ナッツ食品

カリカリと小気味良い歯ざわりでと香ばしさで、一度食べ始めると手が止まらなくなるナッツ。最近の研究では日常の食生活に適度に取り入れることで、美と健康をサポートしてくれることが報告されています。この自然からの素晴らしいギフトを日本人と結びつけるのに大きな役割を果たした企業が兵庫県神戸市にありました。

東洋ナッツ食品

兵庫県神戸市東灘区深江浜町30番地(本社・工場) 078-452-7200 http://www.toyonut.co.jp
1959年に日本で初めて世界の木の実の加工販売を開始したパイオニア。創業当時はアーモンド、カシューナッツ、ミックスナッツ、レーズン、プルーンなどを中心に業務用製品を取り扱っていたが、東京オリンピックを機にミックスナッツの販売を一般市場へと拡大。それまで高級なイメージの強かったナッツを庶民の間に普及させた。また、日本の地で初めてアーモンドの木の栽培を成功させ、素焼き・無塩のナッツ市場を開拓した先駆者でもある。現在は世界各国のナッツ、ドライ・フルーツなどの輸入および製造販売を行い、オリジナル商品の研究・開発に勤しんでいる。

日本初のナッツ専業メーカー

生産者と東洋ナッツ食品の技術者たちの思いがしっかりと刻まれたナッツ。しっかりとした実は食べ応えがあります。

スーパーやコンビニだけでなく今や100円ショップでも手軽に買えるナッツ。美容と健康に優れた効果を発揮する食品の中でもおやつ感覚で食べられるとあって、ここ数年は急激に売り上げを伸ばしています。最近では1日の摂取適量分を小包装にするなど、食べやすさに工夫を凝らした商品も登場。より手に取りやすくなりました。

ひと昔前までナッツにつきまとっていたイメージは「高級品」。銀座の一流クラブでサーブされるお酒のおつまみだったり、デパートでは仰々しく箱に入り贈答用として並んでいたり。どちらかというと非日常的な食べ物で、庶民とは少し縁遠いものでした。

そこで、ナッツを広く人々に親しまれる食品にしようにと取り組んできたのが東洋ナッツ食品。「いつでも、どこにも、だれにでも」をキャッチフレーズに、日本で初めてアーモンドなどの木の実を加工販売したナッツ専業メーカーです。

一大産地はカリフォルニア州

産地にはまめに足を運び、生産者の苦労に寄り添います。ビジネスパートナーとして信頼を築くことが、品質向上の第一歩。

兵庫県神戸市にある工場では、年間5000トンのナッツ商品を製造。現在はアーモンド、くるみ、カシューナッツ、ピスタチオ、マカデミアナッツ、ピーカンナッツ、ヘーゼルナッツ、ブラジルナッツと8種類のナッツを取り扱っています。日本で流通しているナッツは99%が海外からの輸入品。アーモンドはその99%をアメリカ・カリフォルニア産が占めています。他にもスペインやイタリアなどヨーロッパの乾燥地帯で栽培されており、「最近のトレンドはオーストラリア産なんですよ」と教えてくれたのは東洋ナッツ食品フロンティア開発室の倉内敏章さん。ナッツにもトレンドがあるとは驚きです。

「オーストラリア産ナッツへの注目が高まっているのは、収穫時期がカリフォルニアとは真逆になり、出荷のタイミングが重ならないため。もしカリフォルニアがその年不作だったとしても半年後にはオーストラリア産が出荷でき、安定した市場を守ることができるからです。今後、オーストラリアはナッツの主要産地として、より活用されていくのではと見ています」。

同社では、こうした最新の情報や産地の動向に常にアンテナを張り、日本のナッツ市場に反映させています。

【コラム】食べたことある? ブラジルナッツ

ブラジルナッツは東洋ナッツが創業当時から輸入しているナッツの一つ。けれども日本人には非常にレアで、あまり馴染みがありません。生育しているのは南米のアマゾン川流域。サイズは大人の親指大でカシューナッツに似た白っぽい色をし、表面は茶色の薄皮に覆われています。油分と食物繊維を多く含み、シャリシャリとした食感も特徴です。

最近はその高い栄養価にスポットが当たり、スーパーフードとして人気が上昇中。1日1粒食べるだけで、生活習慣病の予防やアンチエイジング、免疫力アップなどさまざまな効果が期待できるとか。同社の商品では缶入りミックスナッツの一部に含まれているそうなので、探してみてはいかがでしょうか。


生産者との絆と品質管理

創業期から変わらない製造へのこだわりが味のクオリティを守っています。

取り扱うナッツのすべてを輸入に頼っているからこそ、同社がなおざりにできないと考えているのが生産者との結びつきです。ナッツは木が成長して収穫できるまで5年以上の歳月がかかります。その間も天候に気を配り、手間を惜しまず世話をしてくれる農家と信頼関係を築くことが、品質を保つためには大事です。育成期間中は購買担当者や品質管理者が年に何度か産地に赴いて農家とコミュニケーションを図り、農園の環境にも目を光らせています

ナッツに対する日本の品質評価基準は世界と比べてはるかに厳格。粒が不揃いでしわがよっている程度なら他国では許容範囲ですが、日本で直食用として販売するなら論外。味に大差はなくても不良品扱いになってします。日本人が好むのは粒が揃い傷のない見た目に美しいナッツ。市場のニーズに応えより高ランクなナッツを買い付けるため、東洋ナッツ食品ではさらに厳しい独自の品質評価基準を設けています。

粒を揃える選別作業も念入り。原料の段階、加工後、製品化前と少なくとも3回は行い、ふっくらと大きく食べ応えのある一粒を厳選しています。こうした堅実な努力の積み重ねが「世界ナンバーワンの品質」と言い切れるほどの自信につながっているのです。

手間をかけて引き出す味

東洋ナッツ食品の商品。味付け商品はうま味調味料を加えることで塩分を控え、日本人好みの味に改良しています。

東洋ナッツ食品では創業以来、加工にも並々ならぬ情熱を注いできました。味と風味を常にベストな状態でお客さんに提供するため、大量生産を行わないのがポリシー。自社で加工専用機械を開発しナッツの種類ごとに回転数や火力を微調整したり、毎年のナッツの出来に応じてレシピも作り変えるなど、きめ細やかな製法で素材の味を最大限に引き出しています。

とことんおいしさにこだわり、オリジナルの製法やレシピを検証しているのは専任の研究者たち。しかし熱心さが増すあまり、生み出した加工方法は「やや非効率」とも言えるのだそう。たとえば、アーモンドをローストするのに他社では熱風を当て短時間で焼いているとすると、同社では直火で長い時間をかけて火を通し、ムラが出ないように製造者たちが常に気を配るといった具合。生産量は他社に比べてぐんと少なくなりますが、しっかりと手間と時間をかけたぶんだけナッツは応えてくれ、香ばしさや歯ざわりが格段に違ってくるのだと言います。

「水分を生かしながらじっくり加熱した当社の無添加アーモンドは、お客様から甘いというお声をいただいています。ピスタチオは色鮮やかなグリーンを損なわないように焙煎し、くるみは独特の苦味を嫌がる人のために渋みを抑えて甘みを引き出す製法を生み出しました」と話すのはフロンティア開発室の大谷奈津実さん。ナッツ生産者が手塩にかけて栽培してくれた思いに報いる意味で、私たちも手間を厭わず製造するのが使命だと語ってくれました。


日本で育ちにくいアーモンド

毎年大盛況のアーモンドフェスティバル。庭園には多くの人が詰めかけ、ピクニック気分でお花見を楽しみます。アーモンドの花が咲くのは毎年3月から4月にかけて。今年は暖かい日が続き、平年より早めの満開を迎えました。

日本でアーモンドの木の栽培を始めたのも東洋ナッツ食品が最初です。40年前にカリフォルニアから苗木を持ち込み、かつては社員教育の一環として社員全員で世話をしていたそうです。そもそもアーモンドは乾燥した環境を好み、梅雨がある多湿な日本では育ちにくい植物。知識も技術もない素人が生育を管理するには苦労が伴いました。幾度となく枯れそうになりながらも少しずつ枝葉を増やし、今では本社・工場の庭園で約40本が立派に成長しています。これほど多くのアーモンドの木が育っているところは国内で唯一。現在は専任の庭師が1年を通して手入れを行い、大切に見守っています。

春になると桜によく似たつぼみが徐々に膨らみ、満開時には麗しい花弁が放つ芳香にうっとり。咲き誇る見事な花を多くの人に見てもらおうと、3月には庭園を一般開放し「アーモンドフェスティバル」が開催されています。ソメイヨシノより一足早くお花見が楽しめるだけでなく、揚げたてアーモンドやアーモンドオーレなど、この時にしか味わえないオリジナルフードも登場するとあって大盛況。口コミで人気が拡散し、毎年約3万人が訪れる一大イベントとなっています。来年は記念すべき30回目を迎える「アーモンドフェスティバル」。例年より盛大に行われる予定だそうで、期待に胸が弾みます。

ナッツごとの主な栄養価

揚げたてアーモンドはアーモンドフェスティバルだけで販売されている人気フードです。

ナッツは種類ごとに味や香り、食感が違うように栄養価も異なり、個性を知り上手に摂取することが体内に必要なパワー取り込むコツです。「特に現代人に不足しがちなビタミンやミネラルなどがそれぞれのナッツに多く含まれています」と大谷さん。主なナッツの特徴的な栄養価について紹介してもらいました。

●アーモンド
【代表する栄養成分】ビタミンE
ビタミンEには抗酸化作用があり、すべての食品の中でアーモンドに一番多く含まれています。さらに食物繊維もナッツ類の中で最多とされ、ごぼうの約2倍。毎日食べるとアンチエイジングや美肌へ導いてくれる効果が期待できます。

●カシューナッツ
【代表する栄養成分】ビタミンB1
ビタミンB1は糖質をエネルギーに変えるときに必要な栄養素であり、不足するとエネルギー不足になり疲労の原因になります。またナッツの中では油脂が少ないのも特徴です。夏の暑さに弱い人は、カシューナッツを積極的に摂取し、夏バテ対策を行いましょう。

●ピスタチオ
【代表する栄養成分】カリウム
体内に溜まった不要な塩分や水分を調整してくれるカリウムが多く含まれており、高血圧予防やむくみ解消に効果的。さらに眼病予防に良いとされるルテインとゼアキサンチンも含有しています。パソコンや運転による疲れ眼に悩む人は意識して食べると良いでしょう。

●くるみ
【代表する栄養成分】オメガ3脂肪酸
くるみ全体の約7割にオメガ3脂肪酸が含まれています。オメガ3脂肪酸は青魚に含まれるDHAと同じ種類で、悪玉コレステロールを下げる効果があり、動脈硬化の予防、コレルテロール値の正常化に一役買ってくれます。生活習慣病が気になる人はぜひ取り入れたいナッツです。

●マカデミアナッツ
【代表する栄養成分】パルミトレイン酸
パルミトレイン酸は皮膚の老化を防ぐのに役立つ栄養成分。30歳を過ぎると体内での分泌量が減っていくため、外から補うことが大切です。食べ続けると美肌効果が期待でき、特に乾燥肌の人におすすめです。


ナッツを食べる時の注意点

大谷さんが「アーモンドの食感がタケノコの食感に似ていることから思い立った」というアーモンド入り肉まんは自信作。

最近は間食にナッツを選ぶ人が増えています。その利点を大谷さんは次のように話します。

「ナッツは他のおやつ類に比べると糖質が少なめ。空腹時に食べても血糖値を急激に上げることがなく、脂肪の吸収も抑えてくれるので、ダイエットを心がけている人にはぴったりと言えるでしょう。食べるタイミングは食前がベスト。その後にごはんを食べると血糖値の上昇が緩やかになります」。

また、よく噛むことで満腹中枢を刺激し、食後の満足度を高めてくれるのもナッツの良いところ。すべてのナッツの栄養素をバランスよく取り入れたい人は、多種類がパッケージされたミックスナッツが最適です。

ただし食べ過ぎには落とし穴も。ナッツは消化に時間がかかり、度を越した摂取は胃腸に負担をかけることもあります。アーモンドなら1日23粒程度を目安とし、種類に限らず手のひら分ほどが適量と考えましょう。また、塩やキャラメルなどで味付けされたナッツは食べやすいぶんカロリーが高く注意が必要です。特に食事制限のある人は医師に相談し、決められた範囲内の量に抑えるようにしてください。

ナッツの伝道師を目指す

大谷さんのアイデアから商品化に至ったアーモンドふりかけとアーモンドラー油。今後は一般販売も視野に入れているとか。

今後はナッツの魅力をより深掘りし、ナッツの伝道師として情報発信にも尽力したいという同社。大谷さんは管理栄養士の有資格者であることを生かし、ナッツの持つ栄養素に着目した料理の開発に励んでいます。

「単においしいだけにとどまらず、低糖質ダイエットに効果的なメニューだったり、栄養面からナッツと相性の良い食材との組み合わせを考えたりしています」。

特に力を注いでいるのが、和食や中華にナッツを取り入れた新しい味の提案や、季節野菜とナッツを合わせた料理の試作・開発。ナッツ=洋という根強いイメージを払拭し、食卓の一品としての地位を確立するのが狙いです。アーモンドの食感を生かし、肉まんのタネの素材の一つに取り入れてみたり、柚味噌に砕いたマカダミアナッツを混ぜ、出汁で炊いただいこんに添えたり。レシピはウェブサイトなどで公開する準備も進めていくそうです。

7月22日はナッツの日。本格的に迎える夏の暑さをナッツパワーで乗り切りましょう。

(2018年3月 取材・文 岸本 恭児)