うおくに商店

調理に手間がかかるという先入観からか、若者を中心に進む乾物離れ。一方で、先人たちから受け継いできた乾物ほど優秀な食べ物はないと気づき、その魅力を伝えていきたいと専門店を持った若い夫婦がいます。通りを行き交う人々が思わず足を止める、新しいスタイルの乾物屋とは。

スタイリッシュな店内では、乾物や調味料を雑貨のようにディスプレイ。手に取りゆっくりと買い物を楽しめます。

“イマドキ”な乾物屋

「うおくに商店」は全国から選りすぐりの乾物を集めたセレクトショップ。神戸の旧商店街にオープンして2年目の新店です。70年以上続く和歌山県にある本店「魚国商店」からのれん分けし、三代目の娘婿である見澤良隆さんと奥さんが二人三脚で営んでいます。店のテーマは「日常づかいができる、おいしくて良いもの」。ひじきや昆布、のりなどの乾物から、醤油や塩といった調味料まで、ストーリーのある品々を取りそろえています。乾物屋といえば一般的に暗くて地味なイメージ。それを一新したいと、店内は白を基調とし、壁面の一部をガラス張りにすることで明るく開放的な空間に。和歌山県の特産品であるしゅろほうきやたわしなども並び、まるでおしゃれな雑貨店のようです。

見澤さんは注文が立て込むと夜な夜な石臼で山椒を挽きます。香りは風に乗り、外の通りにまで漂うほどの強さ。挽き立ての山椒は空気を含み、フワッとしてやさしい舌触りが印象的。香りがきわ立ち、後を引くおいしさです。

子どもに安心できるものを

見澤さんの実家は和歌山県でうどん屋を経営。幼少期から昆布やかつおで引いた本物の出汁に親しんでいたものの、そのおいしさに気が付いたのは一人暮らしをするようになってからでした。奥さんも実家で当たり前のように食べていたのりやわかめが、大人になって特別な味だったことを実感し、ありがたさが身に染みたと言います。そんな2人が結婚して子どもが誕生したことで乾物の魅力に改めて開眼。「子どもには安心できる良いものを食べさせたいと思ってもなかなか売っていなくて。それなら自分たちで商売をやってみようと思いました」。
数あるアイテムの中でもイチオシは山椒粉。山椒の生産が盛んな和歌山県から独自品種である大粒のぶどう山椒を仕入れ、見澤さんが石臼で手挽きしたフレッシュなものを販売しています。柑橘系のさわやかな風味と鮮やかな萌黄色、ピリッと舌を刺す目の覚めるような刺激が特徴的。一度食べると他の山椒粉は食べられないとリピートする人も多い逸品です。「山椒は熱に弱いので、石臼でゆっくり挽くのが風味を飛ばさない秘訣。細かすぎると味が飛び、粒を残しすぎると舌にさわるので大きさにもこだわっています」。脂肪分の多い食品との相性が良く、見澤家ではさまざまな食べ方で楽しんでいるそう。「脂の乗ったサンマやブリ、肉、チーズフォンデュともベストマッチ。カップ麺に振りかけるとリッチな味わいに変化しますよ」。

乾物は和歌山県産のものを中心に、全国から選りすぐったこだわりの品々をラインアップ。一部はネット販売も行っています。

実は便利なお助けアイテム

乾物は戻すのに手間がかかり使いづらいと嫌がる人もいますが、見澤さんは料理をする時間がない忙しい人にこそ便利な食品だと太鼓判を押します。「乾物は保存が利くので生野菜のようにうっかり冷蔵庫で腐らせてしまうことがありません。出かける前や家事の合間に水に漬けておけば勝手に戻り、千切り大根などはすでに刻んであるので下処理いらず。食べる分だけ小分けして使うこともでき、ロスがないので一人暮らしの人にもおすすめです」。店頭ではおいしい食べ方や保存の方法も教えてもらえます。

うおくに商店のおすすめ

石臼挽き山椒粉

口にしたときのインパクトが強い山椒粉。フランス料理やチョコレートの材料としても使われています。

天然加太わかめ

取れたてを洗ってそのまま干したもの。湯通ししていないので高い栄養価も維持しています。水で戻すと新芽のやわらかさも味わえます。

大羽いりこ

1匹10㎝ほどはある香川県のひうち灘産のいりこ。内臓とエラを取り除くと上質な出汁が取れます。おつまみやおやつとしてそのまま食べても美味。

にしきのり

やや水分を含みしっとりとしている焼く前の干しのり。食べる前にさっと炙ると香ばしい香りが食欲をそそります。青のりが少し混ざっていているのも独特。

DATA:

うおくに商店

兵庫県神戸市中央区 中山手通4丁目10-30

TEL 078-855-8564

営業時間 11:00~19:00

定休日 水曜

URL http://kanbutsu-uokuni.jp/

(2016年5月 現在)

うおくに商店 からのメッセージ

夏はうなぎがおいしい季節。ぜひ当店自慢の石臼挽き山椒粉をかけて召し上がりください。バニラアイスの上にパラパラと振りかけてもおいしいですよ。ネットでも店頭でも挽き立てをお買い求めいただけます。

【取材レポート】
見澤さんいわく、乾物も生鮮食品と同じで旬の時期に取れたその年の新物は味が違うそう。たとえば青のり。いつもは彩りに添えられる程度の脇役も、国産の旬のものは香りが格段に高く味も絶品。このような“本物”を知らない人が多いと言います。見澤さんは生産者が丹精込めて作った良いものをできるだけ良い状態でお客さんに届けたいと商品管理を徹底。同店では冷蔵、冷凍、クーラー、常温とそれぞれの乾物にベストな温度帯に分けて保存しています。こうした心配りがじわじわと乾物ファンを増やしているのかもしれません。