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見た目を裏切る唐辛子

真っ赤に色づき、まさに食べごろの鷹ヶ峯唐辛子。甘くみずみずしく、肉厚で食べ応えは充分です。

「これを食べてみてください」。九条ネギの次に案内された畑で瀧瀬さんがおもむろに差し出したのは、大きくて真っ赤な唐辛子。なんとも辛そうな見た目に恐る恐る少しだけかじってみると、厚みのある果肉は予想を裏切るフルーティーな甘さ。辛さなどどこにも感じられません。「これは鷹ヶ峯唐辛子と呼ばれる甘い唐辛子なんですよ」。

鷹ヶ峯唐辛子は人々の嗜好の変化に合わせて生み出され、明治以降に品種として確定した京の伝統野菜に準じる野菜です。実り初めは艶やかな緑色をしていますが、畑で成熟させていくとはっとするほど鮮やかな赤色に変化していきます。見た目にインパクトがある味わい深い野菜ですが、収穫率が低く栽培地もごくわずか。市場で見かけることはほぼありません。

「絶滅寸前だと聞いて、私たちの手でどうにか守っていけないかと考えました。ありがたいことに農家さんが大事にされていた種を譲ってもらうことができ、栽培するようになったんです。ただし実は売らず、種も一切外には出さないというのが、その農家さんとの約束。今は研究のためだけに育てています」と古田さん。種を取った後は生徒たちが家に持ち帰り、じゃこと炒めたりカレーの具にしたりして食べているそうです。なんともうらやましい話。ぜひとも再び市場に広がってほしい味わいです。

栽培から販売までが学び

振り売りに出かける生徒たちの台車には収穫したばかりの野菜がいっぱい。地域の人たちにも大変好評だそうです。

放課後、授業を終えた生徒たちはその日収穫した野菜を台車いっぱいに乗せ、いそいそと準備に追われている様子。聞けば、今から校内や地域を売り歩いて回るとのことでした。これは伝統的な行商である「振り売り」になぞらえたもの。京都では昔、農家の女性たちが収穫したての季節の野菜を大八車や頭に乗せたかごに入れて売り歩いていました。常連さんの家に声をかけると、自然と近所の主婦たちが寄り集まり、旬の味を買い求める光景が街中で見られたそうです。今よりずっと生産者と消費者の距離が近く、本当の意味で“顔の見える販売”が行われていました。

栽培した野菜を売ることも、生徒たちにとっては大事な仕事であり学びの場。自分たちが作ったものに顧客が魅力を感じ買ってくれてこそ、野菜を育てることに意味が生まれると松田先生は言います。

「地域を回っていると、『今日は何を売っているの?』『こないだの、おいしかったよ』と声をかけてもらえるのがうれしくて」と声を弾ませる瀧瀬さん。売り上げは肥料や資材を購入する資金になります。稼がないと来季の野菜をつくることができなくなるので生徒たちも必死。古田さんは栄養面から野菜の魅力をアピールするなど、消費者に響く売り文句にも頭をひねっているそうです。

始まりは水菜の種から

見せてくれた小さな小さな種。

四季折々ににぎやかな顔を見せてくれる桂高校の畑。ここで京の伝統野菜づくりがスタートしたのは8年前のこと。松田先生によれば、きっかけはある日手にした水菜の種だったそうです。

「授業の一環で京野菜の水菜を育てようと種を買ってきたところ、その袋には採種地名が中国と記載されていました。気になって他の京野菜の種の袋も見てみると、どれもこれも諸外国ばかり。日本の野菜なのにどうしてだろうと疑問を抱いたことから、生徒たちとともに調査を始めました。調べていくと、京野菜のほとんどが固定種ではなく、F1種(交配種)であることがわかったんです」。

現状に触れて危機感を覚えた松田先生と生徒たち。このまま放ってはおけないと、府内で固定種から伝統野菜をつくっている農家さんを探し出し、少しずつ種を譲ってもらい栽培に取り組むことにしました。けれども、その種を手に入れるまでが難関。一筋縄ではいきませんでした。

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