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そっと開いた巣箱の中は

「この仕事は毎年答えが違います。今年と同じように来年も行くとは限らないのが難しいところですね」と稲田さん。

取材に訪れたのは、今シーズン最初の作業である掃除採蜜を行う日。掃除採蜜とは、越冬のためにミツバチたちが蓄えていたハチミツやえさとして与えたハチミツをいったん空にし、巣をつくりやすい環境に整え、新しいハチミツが溜まりやすくする作業のことです。巣箱に近寄るときは、ミツバチたちの攻撃に備えて全身を完全防備。面布付きの帽子をかぶり、長袖、長ズボン、手袋、長靴の着用が必須です。ハチの種類の中でも比較的おとなしいとされるミツバチですが、薄手のシャツならその上から容赦なく刺してきます。稲田さんも、不意に脇腹をやられたことがあるとか。万が一刺されてアナフィラキシーショックを起こすと、場合によっては死に至る危険もあるため油断はできません。

巣を垂らしているのはミツバチたちの勢いが良い証拠。規則正しく卵を産んでいるところも元気が良いという証。

ミツバチたちを刺激しないようにそっとふたを開けた稲田さんは、すかさずくん煙器でシュッシュッと煙を吹きかけました。煙にはミツバチを落ち着かせる効果があり、くん煙器は作業をスムーズに進めるために欠かせない道具です。「巣箱を開けたときにブンブンと騒ぐのは、ミツバチの数が少ないか女王バチが不在、もしくは調子が悪いということ。静かだと、ミツバチの数が多く女王バチもしっかりしていて元気ということなんです。こういう巣箱は全体の統制がとれているので、ミツバチたちが上手に働けています。ミツの量も多いですよ」。

巣箱の中に入っているのは9枚ほどの巣板。そのうちの1枚を稲田さんがゆっくりと取り出しました。表面にはびっしりとミツバチが張り付いています。2、3度上下に振ったりハチブラシでミツバチを払い落とし、巣の状態をじっくりと観察。「うちの親父はベテランなので、巣板を2、3枚触っただけで巣箱全体の様子がわかります。私はまだまだ。1枚ずつ見ていかないといけないので、どうしても時間がかかっちゃいますね」。その間、ミツバチたちは敵がやってきたと攻撃を開始。稲田さんに向かって体当たりしてきます。「最初は誰もが怖がりますが、慣れてくるとかわいいもんですよ」。成長を見守ってきたミツバチたちにやさしく触れる手から愛情がうかがえます。

移動養蜂家の1年とは

巣板に付いた蜜ろうをそぎ落として遠心分離機へ。トロリと流れ出たハチミツはまじりけのない濃厚な味わい。

養蜂家には同じ場所でミツを採る定置養蜂家と、四季ごとに花の咲く場所を追って日本中を移動する移動養蜂家の2種類があります。稲田さんは移動養蜂家。春が過ぎ、大阪での採蜜を終えて6月中旬になると、毎年250箱ほどの巣箱を大型トラックに乗せて北海道へと向かいます。「移動のための準備が養蜂家にとって一番大変な仕事」とこぼす稲田さん。ミツバチに負担がかからないよう手早く準備を終え、寝る間も惜しんで車を走らせます。24時間以上かけて現地に着くと、すぐに巣箱を下ろして許可を得た所定の場所へ設置。作業は徹夜になることもあるそうです。夏場は家族と離れて暮らし、北海道でアカシアなどからミツを採取。11月には再び大阪へと戻ってきます。本格的な冬を前に巣箱の中の環境を整え、府内の温かい地へ巣箱を移動。1、2月になるとミツバチたちは巣の中でじっとおとなしくし、越冬期に入ります。女王バチも産卵をしないのでえさは最小限。掃除採蜜で採ったミツを与えながら春を待ちます。

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