トップ > 食育特集 > File.16(4)

特集メインタイトル

一子相伝で受け継ぐことの難しさ

仕込み途中の樽は冷蔵庫の中で保存。昔は木製樽が主流でしたが、衛生上の問題で今はプラスチック製に変わっています。

家業を手伝って13年になる智史さんですが、まだまだ修行の身。この道40年の父に教えを乞い、日々技の継承に励んでいます。技は目で見て、舌で確かめて盗むもの。基本の調味液についてはレシピがありますが、漬物の出来を左右する"塩振り"は職人がそれぞれに経験の中で培ってきた感性だけで行います。「父親は『塩は手でふたすくいな』と言ってさっと樽の中に振っていきます。それを僕はじっと観察して、樽に広がった塩の状態を見て分量を判断するわけです。僕らはそれをよく雪の降り具合に例え、『うっすら積もって地面(樽底)が見えるくらいやな』みたいに表現したりします。味加減は父親が仕込んだものをなめて、舌に記憶していきます」。見様見真似で覚えたやり方を実践してみても、最初から納得できる結果を出せることなどありません。

塩は赤穂産のものなど3種類を使い分け。なすの塩もみには、粒が大きめのものを使っています。

「人ぞれぞれに手の大きさは違うやないですか。父親のふたすくいと僕のふたすくいではもちろん量も違ってくるわけで、『ふぁ~っと振るんや』と言われても、その微妙なニュアンスをつかむのは簡単やないんです。毎日同じものを食べて一緒に生活している親子ですら難しいんですから、これが他人同士やったらもっと大変。だからうちでは、外から職人さんは入れへんのです」。

疑問や迷いが山積みの毎日で、励みになるのはお客さんの何気ない言葉。「千枚漬を毎年買ってくれてはるお客さんから『今年のはおいしいな』と声を掛けられた父がショックを受けてました。今年は俺が漬けてへんのにって(笑)」。一人前と認められるまでの道のりは多難でも"一歩ずつ楽しみながら"が智史さんの信条です。

若者たちにもっと漬物を

季節の野菜を使った漬物は、食卓を鮮やかに彩ります。

若い世代を中心に進んでいると聞く漬物離れ。豊かな食生活に慣れてしまった今、漬物の必要性を感じる人が少なくなっているのかもしれません。それは店を訪れる修学旅行生の声からもうかがい知ることができるという智史さん。「どうやら漬物が食卓にのぼらないみたいなんです。食べたことがないという子も珍しくありません。たぶんこの子たちのおじいさんやおばあさんは、味噌汁にごはん、漬物があればいいという世代。父親や母親も同じものを食べて育ってきた中で、漬物の味にちょっと飽きが来てしまってるんやないかと思ったりします。それでも若い子たちに試食を勧めると、みんなおいしいと言ってくれます。味を知らんだけで、一度"ほんまもん"を食べてもらえると漬物への見方も変わるんやないかなぁ」と、漬物の未来に期待を寄せます。

こうした流れは、漬物が身近な京都においても例外ではありません。培ってきた食文化を衰退させまいと、京都では2016年度から漬物を学校給食で提供しようという動きが進んでいます。これは食育の一環としての取り組み。ごはんに味噌汁、おかず、漬物といった和食の基本である一汁三菜を献立に取り入れ、和の心を育みたいとの思いが込められています。また、京都府漬物協同組合の青年部では小学校を訪問し、ぬか床教室を開催。子どもたちに自分で漬けた漬物に愛着を持ってもらい、イメージを変えていきたいというのが活動の狙いです。

日本の食文化の礎となった漬物。その繊細で滋味あふれる味を未来永劫絶やさずにいたいものです。

(2015年8月 取材・文 岸本 恭児)

食育大事典facebookページ
ページのTOPへ