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技術はベテランから若手へ

風通しの良い倉庫で2、3か月乾燥させると吉野本葛の完成です。

このような一連の伝統製法に、特別なマニュアルが存在するわけではありません。先人の教えを見様見真似で身に刻んでいくのが黒川本家の習わしです。「たとえば吉野晒しも何回行えばいいという決まり事があるわけではありません。桶に溜まった上水の微妙な色の変化を読みながら調整していくことが何より重要。熟練された職人の経験と勘があってこそなのです」。黒川本家には約30年の歴を持つ職人も在籍。若手はベテランの背中から、本葛づくりの奥義を学んでいきます。

取材に訪れたのは深緑のころ。すでに今年の本葛づくりはひと段落し、順次出荷が始まっていました。さて、気になる今年の出来は?「例年通りといったところでしょうか。出来は乾燥まで終えてしまわないと何とも言えないものなのですが、ベテランの職人になると、水で葛をさらしている段階で今年の状態が良いか悪いかがわかります」。出来の良し悪しをはかるのは白さに加え、触ったときの硬さ。葛の粒子は他のでんぷんとは違って非常に細かいため、沈殿していくとみっちりと固まっていくのが特徴です。特に純度が高い黒川本家の本葛は、完成すると見た目にもかっちりした硬さを備えていると言います。

目まぐるしい仕込みの時期を終えると、夏場は翌年の生産に向けて道具の整備。職人たちの手が休まることはありません。

葛堀り職人の今とこれから

可憐に咲いた葛の花。青々と茂るツルや葉の下には、のびのびと葛根が育っています。

吉野本葛の原材料となるのは、山で採取した天然の葛根です。葛はマメ科のつる性多年草。秋の七草の一つとしても数えられています。夏の終わりから秋にかけてぐんぐんとツルを伸ばし、紫紅色のかわいい花をつけます。元来繁殖力が強い葛は、育つ場所を選びません。都心部の公園や道路脇で目にすることもあります。しかし立派な根を張るまでには至りません。健やかに生育するのに最も好ましい山の中では、ツルを伸ばし、葉を大きく拡げ、太陽の光を存分に浴びて地下の根にたっぷりとでんぷんを貯めていきます。豊かな自然の恵みを受けて旺盛に育った葛根は、100kg以上に成長することも。それを葛堀り専門の職人である山方(やまかた)が山へ分け入り、折らないように注意を払いながら1本1本手で掘り起していきます。「葛堀りは山奥での大変な作業になるので、いかに効率良く掘るかがポイント。骨折り損にならないよう、山方さんたちは日ごろから山をよく見て、葛が良く育っている場所に目星をつけています」。

自然の中で大きく育った葛根。掘るのも山から降ろすのも一苦労です。

葛堀りは農閑期の仕事として、特に戦後の貧しい時期には多くの人が携わっていました。しかし最近では職人に高齢化の波が押し寄せ、本葛づくりに欠かせない人材が今後ますます減少していくのではないかと懸念されています。葛堀りという仕事自体を知る機会が少なくなり、若い働き手の流出が著しいこの地域では、後継者不足も深刻です。先祖代々受け継いだ味をこれからも引き継いでいきたい思いが強い黒川本家にとって、葛堀り職人の存在は偉大。将来の担い手を1人でも増やしていくために、黒川さんは自治体への働きかけを行っています。「葛堀りの認知度を高め、興味を持ってもらえるように力を注いでいくことができれば。本葛づくりに携わる人が増えて、地域の過疎化を食い止める一助にもなれば幸いです」。

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