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きっかけは1冊の著書から

キッズキッチンでは子どもたちが主役。エプロン姿がりりしく映ります。

NHKが前例のない番組づくりに孤軍奮闘していたころ、製作者たちの目に留まったのが坂本さんの著書『坂本廣子の台所育児~一歳から包丁を』でした。本書は、子どもを台所に立たせることの意味、道具の選び方や何から始めさせるのが良いかなどをアドバイスした1冊。米のとぎかたやだしの取り方、魚を焼くといった料理の基礎も、子どもの目線でわかりやすく丁寧に書かれ、家庭における食教育のバイブルとして今も読み継がれています。この本を読んだ製作側からのオファーを受け、坂本さんは『ひとりでできるもん!』に監修として携わることになりました。

当時は親子料理教室の全盛期。しかし坂本さんはその在り方に疑問を抱いていました。「親子で習うといっても、作業はほとんど親が進めて子どもは何もさせてもらえないのが常。ただ見ているだけでは子どもにとって何の経験にもなりませんよね」。

食を通しての学びが子どもの成長に大きく影響を与えることに気が付いた坂本さんは、1984年に「食教育を考える会」を発足。子どもが主役となって料理をする教室を幼稚園などで指導するようになります。活動の根底にあるのは「子どもが料理をすることはけっして難しいことではないし、危険なことでもない」という思い。『ひとりでできるもん!』の製作スタッフに加わったのは、こうした思いを、番組を通してより広く発信していけるのではと考えたからでした。

エデュテインメントとしての番組づくり

「私にお話があった段階ではまだ主人公しか決まっておらず、キャラクター設定もあいまい。子どもたちに誤解を与えないためには、どう表現し、どう伝えるのが一番いいのかをみんなで何度も何度も話し合いました」。しかし製作スタッフには男性が多く、坂本さんが女性や母親の立場で意見を述べると食い違いが生じることが日常茶飯事。最初に受け取ったパイロットもあまりにお粗末で、現実とかけ離れた内容に驚いたと言います。

「たとえば舞ちゃんがゆで卵を作るというシーン。まずはお鍋にお湯をたっぷり入れて…とあるわけです。問題はそこから。指をパチンと鳴らすと、お湯がなみなみと入ったお鍋が自動的に浮き上がり、シンクに移動するとされているんです。これって現実にはありえないことでしょう。テレビを観た子どもたちが本当に指をパチンと鳴らせて、体にお湯をかぶるようなことがあったら大変。ケガが続出しますよ」。本来なら、お鍋の近くにお水を入れたボウルを用意してお玉で卵を取り出すという安全に配慮した方法を書くべきところ。作り手である大人が番組のおもしろさを追求しすぎ、まったく子どもの気持ちになっていなかったことが、製作を進めていくうえで大きな壁となりました。「作り手には責任があります。子どもたちが観た通りに料理をできるようにしないと絶対にダメ。何より安全を最優先にということをお願いしました」。

坂本さんは番組が単なるエンターテインメントで終わってはいけないと強く思っていました。子どもたちの興味を引き付ける笑いや楽しさの部分はあくまでエッセンス。最終的に大事にしないといけないのは教育的視点だと。education(教育)とentertainment(娯楽)を融合したエデュテインメントとしての作り方を目指すことに、この番組の意義があると考えました。

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