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年々深刻化する後継者不足問題

谷村さんの工房には、大きさや形状、素材の異なる種類の茶筌がいくつも並び、間近でみるとその繊細さに息を飲みます。

高山が抱えるもう1つの大きな問題が後継者不足です。戦前は長男だけに受け継がれてきた技術も戦後は少しオープンになり、次男や三男が跡を継いで仕事をしている工房も増えました。しかし後継者がいないところも多く、職人の高齢化が進むなかで10年後はさらに茶筌業者が減ると予想されています。

「実は私もサラリーマンをしていた時期がありました。両親の仕事ぶりを見て大変さは知っていたので、若いころは絶対に跡は継ぐもんかと思っていましたよ。それでも両親に切望されてこの世界へ入ることに。思い返せば私が職人になったころは茶道人口がピークで、茶筌作りの全盛期とも言える時代。経済的に不安はなかったし、寝る間も惜しんで作業をしていました」。今はお稽古の種類も多様化し、茶道を習う若い人たちは年々減少しています。「しかし私は、一般家庭で日常に茶筌が使われることを期待して次世代の後継者を育てています。それでも、息子に継いでもらいたいとはなかなか言い出せません。伝統工芸品を作るということは、腹をくくらないとできませんから」。

跡継ぎがいないというのは高山に限ったことではなく、京都や金沢など伝統工芸を受け継いでいる地域に共通した悩み。奈良県高山茶筌生産協同組合では後継者育成事業にも積極的に取り組んでいますが、学校教育を通し、幼いころからもっと日本の伝統工芸に触れる機会を持つことも必要なのかもしれません。

茶筌を支える海外からの追い風

日本食やアニメなど、海外では今にわかに"ジャパニーズカルチャー"がブーム。茶道への関心も高まっており、谷村さんの元にもフランス、オーストラリア、ノルウェー、ドイツなど、世界各国からの問い合わせが増えています。「結婚や仕事で海外へ移住した日本人が、移住した先で茶道の文化を広めたい、茶筌を売りたいと申し出てくださるんですよ。ここ2、3年はこのような流れが続いていて、非常にありがたいことだと思っています」。翠華園で行っている茶道体験教室や茶筌作り体験、茶筌の制作過程の見学にも外国人客が増加。海外からのニーズに少しずつ手ごたえを感じている谷村さんは、今こそ自国の文化を大事にする土台作りをしていかなければならないと語ります。

「茶筌を作る工程を見た人は口々に『3,000円台の売値は安い』と言ってくださいます。先日、関西国際空港で行われたあるイベントで茶筌を販売したところ、買ってくれたのは全員中国人。日本の茶筌は自国製品よりやっぱり品質が良いらしいです。日本人はいつの間にか合理性や値段だけで物の価値を図るようになってしまいましたが、物の背景をきちんと見て判断できる教育も必要なんじゃないかと思うんですよ」。 銘品は言葉を並べなくても伝わるもの。高山茶筌の凛とした佇まいがその真実を教えてくれています。

(2015年2月 取材・文 岸本 恭児)

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