トップ > 食育特集 > File.10(3)

特集メインタイトル

高山茶筌の未来を揺るがすもの

茶筌の素材となる淡竹(写真下)、黒竹(写真中)、煤竹(写真上)。それぞれに独特の風合いを醸し出しています。

高山茶筌の原材料には、黒く光沢を放ち重厚感のある煤竹(すすだけ)が用いられることもあります。煤竹とは、藁葺き屋根の天井裏に建築材料として用いられていた竹が、何十年もの間いろりやかまどの煙でいぶされることにより、自然と風合いを増したもの。

築100年を超す茅葺き屋根の家を壊すときに、廃材として出たものを使用しますが、茅葺き屋根自体が年々少なくなっているため手に入りにくく、希少な素材となっています。また、最近は家屋を壊すときに重機を用いることが多く、せっかくの煤竹が潰れてしまい、使えなくなってしまうことも。そこで谷村さんは建築業者と契約し、家屋解体時に手作業で煤竹を屋根から下ろしてもらい、大事な素材を調達しています。

このように、一部の素材は確保することさえも容易ではなく、安定して商品を供給していくことが難しくなってきている昨今。国内市場に目を向けると、中国製などの輸入品が多く出回り、高山茶筌を脅かす存在になっています。「今の日本の市場では、1年間にだいたい100万本の茶筌が消費されています。そのうち輸入品の占める割合は7割ほど。後の約3割を高山で生産し、出荷していることになります。海外製は国内製に比べると品質は落ちるものの、1本あたりの価格が10分の1程度と安価。300円台から購入することができます。茶筌は消耗品なので、使い手に安くてもいいという風潮が広がると、高山茶筌は存続できません」。これまで守り抜いてきた高山の伝統が衰退しないよう、海外製品には原産地表示を義務付けるなど、国のバックアップを受けてさまざまな対策もなされています。

作業の分業化で見えてくること

竹を各流派や用途別に小刀で目的とする穂数に割っていきます。美術品のように美しい1本は手仕事の成せる技。

昔から変わらず、ほぼ家内工業で行われている高山茶筌の製造。今も夫婦二人三脚で行っているところがたくさんあります。谷村さんの幼いころは両親が昼夜逆転の生活を送り、朝の5時まで仕事をしていたそう。「茶筌作りは集中力を必要とします。昼間は来客があったり電話が鳴ったりして手を止めることも多いですが、夜中は誰からも邪魔をされることがなく、静かな中で作業に没頭できるんです」。

それでも、1日に製造できるのはせいぜい7~10本程度。「昔はお茶といえば一部の上流階級の楽しみだったので単価も高く、そこまで量を求めなくても生活していくのに困りませんでした。でも今は単価が下がり、生産性を上げないと厳しいのが現状です。また輸入品との差別化を図るためには、作り手が技術を高めていくこと、そして何より品質を安定させていくことが先決でしょう」。しかし、茶筌作りは全工程が手作業で行われるため、作業の効率化や品質の安定化を目指すのは簡単なことではありません。

そこで、谷村さんの工房では30人の職人を雇い、工程ごとに分業化。「8つの工程を8人に振り分けて1本を仕上げています。1人の職人が1つの工程だけを集中してやれば2年で技が習得できますし、分業化することで品質を安定させ、生産性のアップも見込めます」。大きな問題を解消できた反面、どこか1工程でも職人がいなくなってしまうと、茶筌を作ることができなくなるというリスクも。「うちの職人は最年長が80代、最年少は20代で幅広い世代がそろっています。将来のことを考えると、もうちょっと全体の層を若返らせていかないとね」。技術を未来へと渡していくためには、時代に沿った変化を厭わない柔軟性も大事だと谷村さんは言います。

(つづく)

食育大事典facebookページ
ページのTOPへ