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素材を育てる「竹の寒干し」

寒干しの最中の淡竹。すらりと細くまっすぐ伸びて、あまり枝がないものが茶筌向き。

寒風が吹く2月中旬。高山茶筌の製造を行う「翠華園」を訪ねました。迎えてくださったのは、茶筌師谷村弥三郎の名を受け継ぐ三代目であり、奈良県高山茶筌生産協同組合の理事長を務める谷村佳彦さん。「今がちょうど竹の寒干しの真っ最中なんですよ」。そう言われて軒先に目をやると、円錐状に束ねた竹が至る所に置いてあります。寒干しとは、毎年1月から2月に高山地方で見られる冬の風物詩。厳選した淡竹(はちく)を油抜きし、1か月半から2か月ほどかけて天日干しで乾かしていく、茶筌作りの重要な作業の一つです。こうすることで昼夜の気温差により淡竹が引き締まり、茶筌にふさわしい素材へと育っていくのだそう。

寒干し後は倉庫などで湿度と温度を管理しながら2年間寝かせ、加工するころに良質な竹だけを選別します。「竹は世界中に何百種類とありますが、中でも一番茶筌に向くのは淡竹。茶杓や花入れなどは真竹を使いますが、折れにくく粘り強いという淡竹の特長が茶筌に適しています」。とはいえ、どんな淡竹でも良いというわけではありません。

茶筌はある程度の手ごたえがないとお茶をうまく点てることができないことから、手に持ったときにしなやかなコシがあり、適度な重さがあるものが好まれます。「肥えた土地のものはすくすく成長し、軽くやわらかすぎて茶筌にはもの足りません。また斜面で育ったものは歪んでいるので使いづらい。最適なのは、平地かつ痩せ地で育ったまっすぐで細い淡竹。納得のいく素材に出合うのも一苦労なんですよ」。

手仕事ならでは美点と欠点

高山茶筌とひと口に言っても、その種類は約120にも及びます。茶道はまず流派によって使用する茶筌が分かれ、さらに薄茶用、濃茶用、また点前によっても使われる茶筌は変わってきます。それぞれ素材や形などに違いがありますが、現在主だったものは約80種類。そのすべてが職人たちの極めて繊細な手仕事から生まれています。茶筌作りに使う道具は小刀とやすりのみ。機械には一切頼りません。職人が鮮やかに指先を操り製作していくことから、指頭芸術とも称されています。

茶筌は8つの工程を経て1本が完成。どの工程も熟練の勘が必要とされ、一つ一つ丹念に作られています

茶筌はだいたいが原竹、片木(へぎ)、小割り、味削り、面取り、下編み、上編み、仕上げの工程を経て完成します。1つの技を習得するのに必要な歳月は2年と言われ、1人の職人が一人前になるまでには最低でも16年は修行を重ねなければなりません。「機械化はできないのかとよく聞かれるんですが、1mmに割った竹をさらに0.4mmと0.6mmに割っていく繊細な工程もあります。こんな仕事は人の手だからできること。機械では到底無理ですよ」。

中でも、職人が最も神経を使う特殊な技法が味削り。穂先部分をお湯につけてやわらかくした後、小刀を使い内側を穂先に向かって薄く削り、内側をしごいて流派ごとの形状へと整えていきます。この手加減一つでお茶の味が決まると言われ、この道35年の谷村さんでも、未だに自分が納得できる茶筌は作れたことがないそう。

「高山で一番キャリアのある職人さんでも、まだまだと言っておられます。完璧な茶筌を作るにはまず、この上なく良質な竹との出合いがなければ始まりません。それが1万本に1本かもしれない。たとえ運良くその1本に出合えたとしても、完成まで自分の納得のいく仕事がきちんと重ねられるかどうか。1工程でも失敗してしまうとそれまでです」。谷村さんの言葉に垣間見る職人技の奥深さ。茶筌と向き合う真摯な姿勢がなければ、美術品のような気品を湛える1本は生まれないのです。

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