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食育活動へとつながる2つの経験

自宅で開催する料理教室には、若い女性たちも多く集います。

現在は食にまつわる仕事をフィールドとするさかもとさんですが、かつては音大に通い、声楽家を目指していたこともあるという異色の経歴の持ち主。まさか自分が食育を伝える立場になるとは想像もしていませんでした。しかし振り返れば、今の活動へとつながる大きな原点が二つあるといいます。

一つは、16歳下の妹が産まれて10代のころから母とともに子育てを経験したこと。もう一つは、声楽家としての学びを深めるために師事していたイタリア人マエストロとのあるエピソードでした。「レッスンが終わるとマエストロのご自宅で、ご家族と一緒にランチやディナーをいただく機会がたびたびあったの。みんなでテーブルを囲むひとときは、とてもにぎやか。食事中は子どもたちがその日にあった出来事を両親に報告し、大人の見識から『それはダメ』と怒られている姿もよく目にしたわ。食事中のマナーについても注意されていて、その光景を眺めていた私にあるときマエストロが『la table e una scuola(テーブルの上は学校なんだよ)』と教えてくれたの。食卓は子どもたちにとって学びのある場所でなくてはいけないと」。この言葉が、さかもとさん自身が幼いころに体験したことをふと呼び起こしました。

「口福な家庭は幸福なり」が意味すること

「そういえば私も小さいころに、母や祖母から食事中のマナーや食べ物に対してうるさく言われていたなって。いつもよりちょっといい器におかずを盛ってもらったときは『これはいい器やからね』と大事に扱うように念を押されて、そのたびにドキドキしていたわ。ごはん粒には神様がおられるからと、お茶碗に一粒も残さないのが当たり前。出された食事を残すには理由が必要だったし、食べ物がいかに大事かということを徹底して子どもに教える家庭だったのよ」。

このような経験を通して、「食育は食卓育である」というさかもとさんのベースとなる考えが生まれました。家族という最小単位の社会の中で子どもは多くを学び、その学びの場として親と囲む食卓は理想と唱えます。しかし今は家族そろってごはんを食べることもままならない時代。だからこそ、さかもとさんが日ごろから大事にしている"口福な家庭は幸福なり"という言葉が心に響きます。「贅沢なものでなくてもいいの。おいしいものをおいしいねと言い合いながら食卓を囲める家庭は、やっぱり幸せに満ちているのよね」。エネルギッシュで多弁な語り口に、日本の心を伝える食卓を広げたいという情熱の強さが見えました。

(2015年1月 取材・文 岸本 恭児)

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