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魚食文化の現状とは

活きの良いタコをつかみ取りする
体験教室は明石ならでは

日々熱心に魚食普及活動をしている山嵜さんには、ジレンマも付きまといます。「マグロとカツオ、アジとサバはそれぞれ一緒に見えるけど何が違うの?と、僕の話を聴いている人の頭の上にハテナが浮かんでいるのが見えるんですよ」。

スクリーンで映像を流し、ようやく理解してもらうことは日常茶飯事。特に子どもたちの魚に対する知識不足は深刻です。「『魚の種類をいくつ言えますか?』と聞いて、10個言えたらすごいほう。でも10個のなかに、いくらやトロ、サーモンとかが普通に出てくるんですよ。結局、寿司屋のメニューが魚の名前だと思い込んでいる子が多いんですよね」。小学生対象の料理教室では、血や内臓を見て途中で気分が悪くなり倒れる子もいると、山嵜さんは頭を抱えます。 その一方で、子どもたちに魚食を教える立場にある親世代、特にお母さんたちの料理離れも危惧するところ。「魚はスーパーに並んでいる切り身を買うのが当然で、さばいた経験のない人が本当に多い。親子教室でもタコに触れないお母さんが年々増えている気がします」。

魚は身近な存在でありながら、学校などできちんと学ぶ機会がありません。魚名が間違って伝わっていることも多く、スーパーの鮮魚売り場に行くたび、パッケージの魚名を見て愕然とするという山嵜さん。「ここで間違えられると……。正すきっかけもないし、消費者にきちんと伝わらないのは当然ですよね」。こうした現状も魚食文化の衰退に拍車をかけているのかも知れません。

「お魚かたりべ」としてのこれから

外国人に体験教室を行うことも。
この日はハーバード大学の学生たちが参加

これまでの実績を高く評価され、山嵜さんは今年、水産庁から「お魚かたりべ」として任命されました。単なる料理人では活動しづらかったことも、肩書をもらったことでもっと精力的に動けるようになると意気込みます。山嵜さんに、お魚かたりべとしてのこれからを聞いてみました。すると、自分が先頭に立って魚食文化を普及させていくと同時に、自分と同じような活動ができる人を育てることが急務だという答えが返ってきました。

「昔なら、調理法がわからない魚でも『これはどうやって食べたらいいの?』『これはこうやって処理してね……』と魚屋さんとお客さんの間にやりとりがあって、自然と学ぶ機会が生まれていました。これが魚食文化伝承の原点やと思うんです。でも今、スーパーではそんなやりとりを耳にすることはないし、たとえ店員さんに尋ねたところで答えが返ってくるとも思えません。講演などで年配の人を前にすると、僕はいつも『若い人たちに伝えることをさぼらんとってね』とお願いしています。おいしい魚を食べて長生きしているおじいちゃんやおばあちゃんにこそ、魚食文化の良き伝承者になってもらわないと。その関係性が崩れたから、日本の食文化が乱れてしまったと思うんです。これからの日本を守るためにも、伝えることを休んでもらっては困るんですよ」。

魚に関するみんなの知識を底上げし、水産業界に活気を取り戻したいと強く願う山嵜さん。「僕は漁や魚文化、魚食文化を継承していける防人(さきもり)でありたいと思っています」。そう語る瞳が、海の水面のようにキラリと輝いていました。

(2014年8月 取材・文 岸本 恭児)

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