赤穂市立海洋科学館・塩の国

海水を利用した塩づくりには、塩資源に恵まれなかった日本の知恵が集約されています。原始の時代からすでに始まったとされている製塩方法は、人々の努力により磨き上げられ、時代とともに進化してきました。その歴史の一端を垣間見ることができるのが、赤穂市立海洋科学館・塩の国です。

塩田発展の礎となった揚浜式塩田。塩浜が高いところにあり、人が海水をくみ上げるにはかなりの労力がかかっていました。

江戸で珍重された赤穂の塩。

古くから塩づくりの町として栄えた兵庫県赤穂市。かつては沿岸部に見渡す限り塩田が広がり、作業に精を出す人々の姿が見られました。瀬戸内海の穏やかな気候と恵まれた立地が育んだ赤穂の塩は、食材の持ち味を引き立てる万能調味料であり、健康維持に欠かせないミネラルが豊富。江戸時代にはすでに優れた製塩技術が確立され、その質の良さに注目が集まっていました。塩が貴重だった当時、赤穂で年間5万トンほど生産されていたうちの約7割は、船で江戸へ運ばれていたと言われています。昔の塩田跡につくられた赤穂市立海洋科学館・塩の国は、塩の歴史や特徴、海洋について、映像と展示で学ぶことができる施設です。瀬戸内海の塩をテーマにした「塩のギャラリー」では、その歴史と製塩方法、体中での働き、用途など塩の知識を楽しみながら深め、昔ながらの塩づくりも気軽に体験できます。

流下式枝条架塩田を最後に、昭和46年で塩田による製塩は廃止されました。

塩田に見る塩づくりの歴史。

広大な敷地内では3つの様式の塩田を再現。日本の塩づくりの歴史をたどることができます。中世に広がった揚浜式塩田(あげはましきえんでん)は、原料となる海水をくみ上げて砂を敷いた浜(塩浜)にまき、太陽の熱によって水分を蒸発。その砂を集めて海水をかけ、かん水と呼ばれる濃い塩水をつくる製法です。江戸時代に入ると、入浜式塩田(いりはましきえんでん)へと変遷。この方法は潮の干満差を利用して海水を塩田に送り込むため人力が少なくてすみ、より大量に塩が採取できる効率的な方法として約400年間に渡り盛んに行われてきました。昭和20年代後半から主流となったのは流下式塩田(りゅうかしきえんでん)。粘土でできた傾斜地盤に海水を自動で流し込み、竹の小枝を組んだ枝条架に通すことで太陽の熱と風の力で水分を蒸発させていきます。砂を動かしたり海水を運んだりする手間が省けたことから、大幅な労働力の軽減につながり、この方式を機に日本の塩づくりが大きく飛躍しました。昭和46年に塩田での製塩が廃止されてからは、イオン交換膜法と呼ばれる科学力を応用した方法へと移行。天候に左右されず、安定して塩を提供できる環境が整いました。

赤穂で使われていた製塩用具の模型。昔は塩田で働く労働者にとって、なくてはならないものでした。

塩の役割を知って上手に利用。

今では私たちの生活になくてはならない塩。精製塩や粗塩、岩塩など種類も増え、どの料理にどう使えばいいのか悩んでしまいます。「実は塩の性質を知ったうえで使うと、いつもの料理がグンとおいしくなります」と話すのは、同館案内人の横山嘉人さん。塩の知識に精通する横山さんいわく、料理における塩には2つの役割があり、その1つは食材に塩味を付ける表の働き、もう1つは、舌に塩味は感じさせず食材のうまみ成分を引き出す裏方としての働きなんだそう。裏方の働きの一例が麺類。うどんやそうめんにはだいたい2~3%とやや多めの塩が含まれていながらしょっぱいと感じないのは「素材のうま味成分と結合すると塩味は抑えられ、コシや弾力を強くする働きを強めるからなんです」と横山さん。紅茶を飲むときにも0.3~0.5%ほど塩を加えると、うまみがアップしおすすめとか。また、塩には甘みをつなぐ効果もあり、お汁粉にひとつまみ入れると味に奥行きが生まれるといいます。
ちなみに、厚生労働省で定めている1日に摂取する適切な塩分量は、男性(12歳以上)で8g/日、女性(10歳以上)で7g/日未満。摂りすぎても少なすぎても体に影響を及ぼします。適量を心がけ健康に気を配りましょう。

赤穂市立海洋科学館・塩の国のみどころ

かつての製塩技術を復元

塩田の変遷を知ることができる塩の国。こちらは復元された入浜式塩田と製塩作業所。

塩のギャラリー

塩のギャラリーでは、巨大な岩塩が展示されていたり、塩の結晶を観察することもできます。

瀬戸内海と塩

館内は「瀬戸内海と塩」をメインテーマに、海と塩、赤穂についてをわかりやすく展示しています。

流下式枝条架塩田の塩

施設内の製塩作業所で、復元された流下式枝条架塩田のかん水から作られた塩。入館された方にはお土産として渡されます。

DATA:

赤穂市立海洋科学館 塩の国

兵庫県赤穂市御崎1891-4

TEL 0791-43-4192

営業時間 9:00~16:30(入館は16:00まで)

休館日 火曜日(祝祭日は翌日)、年末年始(12/28~1/4)

入館料 大人(高校生以上) 200円、小中学生 100円 (特別展開催期間中は別途料金)

URL http://www.ako-kaiyo.jp

(2015年10月 現在)

赤穂市立海洋科学館 塩の国 からのメッセージ

指導員の丁寧な指導による塩づくりの体験学習や、毎週日曜に開催している釜焚きの実演見学など、五感を使った学びも充実した施設です。瀬戸内海国立公園と隣接し、海と緑に囲まれた風光明媚な環境も自慢。ご家族そろってピクニック気分で訪れるのもおすすめです。

【取材レポート】
来館のお土産に施設内で作られた塩をいただきました。粒が粗くそのまま舐めると塩味が強いのですが、炊き立てのごはんで塩むすびを作ってみると、お米の甘さを引き出し、まろやかな味わいに変化。シンプルな食べ方こそ、赤穂産の塩の上質さがわかると実感しました。また今回は特別に、横山さんから塩の知識をたくさんレクチャーしていただきました。目からウロコの情報が満載だったのですが、なかでも私が関心を抱いたのはある動物実験。それは、生き物はストレスを感じると塩味の強いものを好む傾向にあるというものでした。身心と味覚には強いつながりがあるのだなあと考えさせられる大変興味深いお話でした。